静物画講座 ―テンペラと油彩の混合技法― (その2)
■制作の実例 カトレアのある静物を描く
では、実際に描いてみましょう。
今回は、カトレアをモチーフに選びました。ほかに、色彩の対比にレモン、質感の対比にガラス器と胡桃を置いてみました。
1.デッサン
切花は持ちがよくないので、しっかりとデッサンしておく。色見本のために、水彩でも描いておいた。
制作過程1;アンダー・ドロウイング
デッサンをトレーシング・ペーパーに写し、裏に油絵具ライト・レッドを擦り付け、パネルに重ねてなぞる。さらに墨で描く。
制作過程2;アイソレーション(食い込み止め)とインプリマトゥーラ(有色下地)
油絵具ロー・シェンナを油メディウムで溶き、テレピンで二倍に希釈したものを塗布。
制作過程3;テンペラ白による浮き出し
基本的には明るい部分を描いていく。
制作過程4;テンペラ白の続き
背景部はくしゃくしゃにした紙でスタンピングをし、マチエールの変化をつける。
制作過程5;油彩による固有色
花;カドミウム・プルプル、コバルト・ブルー。
レモン;カドミウム・イエロー・ディープ、ヴィリジアン。
胡桃;イエロー・オーカー、ヴィリジアン。
机;バーント・アンバーとヴィリジアン。
各々及び背景に少量のシルバー・ホワイト。
制作過程6;テンペラ白による浮き出し
さらに明るい部分をテンペラ白で描き起こす。机の木目をこの段階で白で描写。
制作過程7;油彩による固有色
花;クリムソン、ウルトラマリン、カドミウム・イエロー。
レモン;カドミウム・イエロー。
胡桃;イエロー・オーカー、バーント・シェンナ。
ガラス器;コバルト・ブルー、ヴィリジアン。
机;バーント・アンバー。
背景;セルリアン、ピーチ・ブラック、イエロー・オーカー。
各々に少量のシルバー・ホワイト。
制作過程8; テンペラ白による浮き出し
ハイライトより一つ手前の明るい部分と、
机の反射の浮き出しをする。
壁には、油脂分を多くしたテンペラのシルバー・ホワイト。。
制作過程9;油彩による固有色。
花;クリムソン、ウルルトラマリン、カドミウム・レモン、イエロー。
ガラス器;コバルト、ヴィリジアン。
レモン;カドミウム・レモン。
胡桃;イエロー・オーカー。
テーブル;バーント・アンバー、ヴィリジアン。
壁;ピーチ・ブラック、シルバー・ホワイト、
イエロー・オーカー、セルリアン。
制作過程10
マスキング・テープを貼り、油脂分の多いテンペラ白を重ねる。
制作過程11
テンペラ白によるハイライトと、テーブルの反射。壁にはごく薄く油彩固有色。
この後、テンペラが残っている部分には、ごく薄い油彩。壁の凹凸感を強調する。
完成作品 カトレアのある静物 F6 1999年 パネルに和紙、白亜地、テンペラ・油彩
《作例の処方》
1.膠液
・ トタン(兎の皮)膠 70g
・ 水 1000cc
※ これを一晩膨潤させたものを、湯煎で溶かす。
2.地塗り塗料
・ 重質炭酸カルシウム 3容量
・ チタニウム・ホワイト 1容量
※ 上記の膠液に、ひたひたまで振り入れる。
3.ダンマル樹脂溶液
・ ダンマル樹脂 100g
・ テレピン精油 200cc
※ テンペラにはこのまま、油彩には倍に希釈したものを使用。
4.テンペラ・メディウム
・ 全卵 1容量
・ ダンマル樹脂溶液 1容量
※ 卵のカラザと黄身の薄皮は取り除く。
※ これらを瓶に入れて、強く振り混ぜる。保存はこのまま冷蔵庫で。
※ 絵具にするには水で倍に希釈したものに、ほぼ等量の顔料を加えて練る。濃淡は水で調節する。
5.油彩メディウム
・ スタンド・リンシード 1容量
・ ダンマル樹脂溶液 1容量
・テレピン精油 2容量